2011年東北大震災で被災者数が最も多かった地域が宮城県石巻市。市内中央には雄大な北上川が流れている。山には鹿が生息し、海では牡蠣の養殖が盛ん。市の中央にある日和山の鹿島御児神社から町を臨むと、広い草原の先にはきらきらと水面が光る海。かつてその草原は、住宅地だった。神社の境内へつながる急な階段を自動車が津波に押し流されて登ってきたという。

まんが家石ノ森章太郎さんに所縁が深い石巻の駅から商店街には、009やロボコンなどの愛らしいキャラクターのカラフルな銅像が点在している。

石ノ森さんの世界観が広がっているのでてっきり出身地だと思い込んでいたところ、石ノ森さんは、登米市のご出身と聞きました。

今回、OCICAという鹿の角と漁網の修理糸でつくられたアクセサリーをつくっている牡鹿半島の牧浜(まきのはま)のお母さんたちを訪ねた。リアス式海岸の、入り組んだ入り江に村落があり、2011年の大地震のときには津波の被害をもろに受けた。怖い思いをしたのに、なぜまたそこに住むの? と、疑問に思う人も多いと思う。けれど、豊かな山、海、川、なにより一緒に生きてきた人たちがそこにいる。

地震で水位が変わり、港に停泊できなくなった漁船が入江に点在し、真っ白な砂のような牡蠣殻が積まれている。

お母さんたちはふだん、畑仕事や、牡蠣の養殖の仕事をしている。OCICAを作るときに午前中から集会場に集まってくる。まずは、鹿角を目の粗い紙やすりから徐々に細かい紙やすりに変えながらていねいに磨いていく。最後に鹿の皮で磨いてつや出しをする。そのとき、大きな傷が浮き出たりすると、また最初から磨き直す。

磨き上げた鹿角に、電動のこぎりで糸を巻く切り込みを入れる。ミシンのような大きなモーター音と、うっかりすると怪我しちゃうかもしれないという怖さで最初、とても緊張する。等間隔に同じ深さに開けていくのが、思ったようにできない。心理状態が反映するのかときどき妙に深くなったり。

糸を通す溝を入れ終わったら、薄い側面から中心に向けて穴を開け、そこにネックレスの首にかける部分の糸を通す。OCICAの美しい模様となる部分の糸より少し太めの糸だった。その後、いよいよ糸を巻いて模様を作っていく。

心配そうに見守るゆりこさん。75歳の最高齢のお母さん。最初は、電動糸のこぎりを怖くて使えなかったそう。いまではすべての工程をこなし、妥協のない仕事ぶりが評判。

意外と糸を巻くのがかんたんそうに見えてなかなかうまくいかない。私の場合、真ん中にきれいな円ができず、3回ぐらいすべてをほぐしてやり直し。しまいにはお母さんがイチからやってくれた(笑)。

一番細かい模様を作ったのは、スタジオ・ヨギー京都店長の千矢さん。(奥・ブラウン) 意外にも大胆な柄になったのは、ヨガインストラクターのリーさん。(手前左・グリーン) その真ん中ぐらいでしょうか、私が巻いたもの。(手前右・赤)

“お茶っこ”で、持ちよった漬物をおつまみに、ひといき入れる。笑顔、笑い声が絶えない楽しいおしゃべりの時間。庭で取れたいちぢくを煮たもの。ごろっとそのまんまのかたちでぜいたくにも何個もいただいてしまいました。畑でとれた野菜のお漬物。今回、私たちを案内してくれたOCICAをプロデュースしたつむぎやさんの現地スタッフ斉藤里菜さんは、さつまいもの炊き込みごはんを作ってくれました。みなさんでこうして手作りのお惣菜をもちよって楽しんでるんですね。

「いろいろあるけれど、ここに来るときは“笑おう!”と決めてるんだ」と、あるお母さんは言ったそう。

この日、電動糸のこぎりを使うときに傍で教えてくれたひろこさんが話してくれた。「庭の菜園に大きな青虫がいたの。気持ち悪い、と思ったけど、きれいな蝶になるのかな、見てみたいな、とキャベツの葉をちぎって別の場所に移動させたの。そしたら、亡くなってしまった。だからどんな蝶になったか見れなかった。好きな葉っぱを自分で選んで食べていたら、いまも元気だったかもしれないね。自然がよかったんだね」お茶っこでさりげなく話すお母さんの話がとても胸に響いた。

お茶っこのあと、午後のヨガに備えて、近くを散策。港のすぐそばの小高い丘にある神社は、津波を逃れ、高い木にひっそりと囲まれている。

この日、スタジオ・ヨギーの社会支援プロジェクトwe-are-oneで訪れていたヨガインストラクターのリー先生がクリスタルボウルを使いながら、ヨガクラスをプレゼントした。OCICAづくりにきていたお母さんのほか、クラスのために遠方からもお母さんが駆けつけて、全部で10人が参加。ヨガ未経験の方が多いのに、ポーズがしっかりできている、とリー先生も驚いていた。畑仕事など、体を使う仕事をいまも続けるみなさんだからこそなのでしょう。

クラスを終え、リー先生から、ヨギーの生徒さんたちから善意で寄せられた白檀のお線香が、お母さんたちにプレゼントされた。みなさんいい香りだ、ととても喜んでいた。最後に、みなさんで記念にぱちり。

牧浜には、あちこちに積まれた牡蠣殻があった。

ふと停めてあったトラックに復興支援をきっかけにはじまったカーシェアリングのマークがあった。かわいらしいアイコンは、スートンとローリー。

森にかこまれ、美しい海岸を抱く牡鹿半島から帰ってくると、石巻市内が都会に感じられ、ちょっぴりさみしい気持ちになった。

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写真&文 七戸 綾子