「経過観察が必要です」
たった一枚の小さなハガキは、一歳児検診を終えた後に届いた知らせでした。

どんな親でもこんなハガキを見たら、一瞬ドキッとするのではないでしょうか。ましてや、我が子の成長や発達に違和感を抱えている親にとっては余程のことです。

娘は生後6~7ヶ月の頃までは、いろんな発達が早かった。首が据わるのも、寝返りを始めるのも、腰が据わるのも。親って早い分には嬉しいんですよね。うちの子は天才なんじゃないかって。

ですが、9ヶ月を迎える頃始まった人見知りが、極端でした。どこにいっても私に抱っこされたまま、私の左脇の下に顔をうずめて誰とも目を合わすことが出来なくなってしまった。同じ月齢の他の子達を見れば、腰が据わり周りを見渡せるようになると、興味が広がりハイハイをして目標物に手を伸ばし、指先を使って遊び始める時期。

我が子にも・・・と脇の下から引っ張り出そうをすれば、手をつけられないくらいの癇癪を起こしパニック。どこへ行ってもそれで疲れきっていた時に届いたたった一枚のハガキに、私は顔面蒼白に。それは、ひきこもり育児が始まった瞬間でした。

娘とふたり、朝から晩までふたりっきりで過ごしました。胸も息も詰まりそうな私と裏腹に穏やかな娘。ある時、窓辺で座っている娘が風に揺れたカーテンの下に出来るひだまりを見て、口角をほんの少し持ち上げた。笑った・・・

ヨガ哲学の教えの中に「アスティア(不盗)」というものがあります。盗まず。
この教えには、金品はもちろん、人の時間や、学びを盗んではいけないという意味があります。

人の時間。学び。・・・私は彼女のペース(時間)を盗んではいなかっただろうか。誰かと比較して焦ってはいなかったか。

私は彼女の口角が上がったのを見たとき、この子はこの子のペースでちゃんと世界を見て、心を動かし、身体で表現していることに気づきました。ちゃんと彼女は彼女を生きているんだって。彼女のペースがあるんだ。彼女の生きる世界を見よう。私がそれに気づいた後、彼女はメキメキとまさに音を立てながら成長していきました。彼女のペースで。

あれが出来ない、これが遅い。そんなネガティヴポイントをカウントしていたそれまでと違って、あれがある、これもある!と数えていくと毎日は感謝の気持ちであふれていく。
欠点はある。でもだからこそ、助け合える。

「アスティア(不盗)」
不盗に徹した者のところには、あらゆる富が集まる  (ヨーガ・スートラ Ⅱ-37)


彼女の歩みを大切にしようとすると、私も自分の歩みの確かさを問われることがある。不盗。命の力を信じて、自分に正直なペースで歩いていけますように。

次回は、『命の力』について触れてみます。

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文 ヨガインストラクター ミヅホ/編集 七戸 綾子