これから何回かにわたりハワイにまつわる話をしたいと思います。世界中には素敵な旅のデスティネーションがたくさんありますが、ハワイは日本人がもっとも好きな旅先の一つではないでしょうか? 

ハワイを訪れる日本人観光客は年間150万人を超えるそう。きっと読者の方の中にも、ハワイが大好きな人も多いことでしょう。身近な旅先であるハワイですが、まだまだ知らない魅力が隠されているのです。太平洋に浮かぶ小さな島々がこれほどまでに私たちを魅惑するのはなぜでしょうか? その理由を探っていきましょう。

ハワイがどこにあるかはご存知ですか? 日本のはるか南の海、正確に言えば北緯19度から20度の太平洋のほぼ真ん中に位置しています。世界地図があるのなら、ぜひ見て下さい。何か気づくことはありませんか? ハワイ諸島は、他の大陸や主な島々から、ぐんと離れているのです。お隣の島は、3000kmのはるかかなた。このような島は世界を見渡しても他にはありません。

実は、これまでハワイ諸島は一度も大陸と地続きになったことはありません。つまり、ハワイの植物や動物たちは、他の種と交わることがなく生き続けてきたのです。ですので、ハワイには地球上ここでしか見られない生き物が、たくさん存在してます。あの進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンも、ハワイの生き物たちの独特な生態に注目していた一人でした。進化論の根拠となったガラパゴス諸島に続き、ここハワイを訪れようとしていたと言われています。もしダーウィンがこの島にやってきていたら、新しい進化論が生まれていたかもしれません。

なぜ太平洋の孤島であるハワイが、このように独自の自然を育んできたのでしょうか? ハワイ諸島でもっとも高い山をご存知ですか? ハワイ島にあるマウナ・ケアです。さて、その標高は? 何と富士山よりも高い4205m。裾野にあたる海底から計ると10203mと、エベレストを抜いて世界一の高さ! 常夏の島と言えども、冬になれば山頂に雪も積もります。ですので、海では水着でサーフィン、山ではスキーなんていうのも、この島では珍しくはありません。ハワイ島には、4000m級の高山マウナ・ロアがもう一つ、さらには地球上でもっとも活発な火山キラウエアも存在します。この複雑な地勢が、ハワイ諸島に多種多様な自然環境をもたらしているのです。専門家によると、この島には地球上にある気候のほとんどが存在するとか。バラエティに富む動植物が生まれてきたのも納得です。

さて、今まで一度も陸続きになったことがないハワイですが、それではハワイに暮らす人々の祖先はどこからやってきたのでしょうか? これは長い間、研究者の間でも大きなナゾでした。ハワイの研究者は、同じ文化のルーツを持つタヒチが自分たちの故郷と考えました。しかし、大航海時代の前に数千キロの大海原を船旅することは不可能だろうと西洋の学者たちは半信半疑でした。羅針盤や海図もない太古の人々が遠洋の航海をすることはできないだろうと。

ハワイアンが誇り高き海の民であることを証明するために、1976年、有志たちが、一艘の航海カヌー“ホクレア号”で旅立ちました。その目的地はるかかなたのタヒチ。現代の航海技術にたよらない古代の原始的な船で大海原に乗り出したのです。そのよりどころになったのが、星の位置を見て進むべき方向を決めるスターナビゲーション。ポリネシアの島々に古代より伝わる航海術です。

紆余曲折があったものの、ホクレア号は無事にタヒチにたどり着き、ハワイアンのルーツが大海原を超えてやってきた海の民であることを証明したのです。その昔、古代のハワイアンたちが、長くてつらい船旅を経て水平線に浮かぶこの緑豊かな島々を見つけた時の感動はどんなだったのでしょうか。今まで目にしたことのない色とりどりの花々や鳥、そして、美しい海と山々……。ハワイがこの地球上に誕生したのも、古代のハワイアンたちがこの島と出会えたのも、まさに偶然の産物です。ハワイが“奇跡の島”と呼ばれるのもうなづけます。今もなお、この島々が、私たちを惹き付けるのも、その奇跡が理由なのかもしれません。

文 美濃部 孝/写真 Hawaii Tourism Authority, Big Island Visitors Bureau, Tor Johnson, Kirk Lee Aeder, Ethan Tweedie