ハワイは、日本人にもっともなじみのある海外旅行のデスティネーションです。しかし好き嫌いがはっきりと分かれる旅先であるのも事実。自分の周りにも、ハワイの話をしても「ハワイなんて」と、はなから興味を示そうともしない方が少なくありません。特に旅慣れた旅行好きに多く、世界中、それこそ数えきれないほどの土地を訪れているのに、ハワイへはかたくなに足を運ばない、という方も珍しくありません。ハワイというと、多くの人が白いビーチと高層ホテル、ツーリストでにぎわっている目抜き通りなどの光景を思い浮かべると思います。ショッピングもビーチも興味がないし、観光地のようなにぎやかな所はどうも苦手……、おそらくハワイに興味を示さないのはそんな理由からでは? 

これはメジャーすぎるがゆえの有名税のようなものですかね。この光景はオアフ島の観光地の中心地であるワイキキ。雑誌やテレビでよく取り上げられるのでお馴染みですね。しかしハワイには個性的な土地が実にたくさんあります。先のコラムでも触れましたが、ハワイ諸島は大小の島々から成り立っています。地元の人たちは「ネイバーアイランド」と呼びますが、ご近所の島はどれも魅力的。北から挙げていくと、「ガーデンアイランド」と呼ばれる緑豊かなカウアイ、ハワイの州都ホノルルがあるオアフ島、神が棲む島マウイ、フラの聖地モロカイ、地球上でもっとも火山活動がさかんと言われているハワイ……。あまりにワイキキのイメージが強いために、ハワイ=ワイキキとステレオタイプでとらえている方が多いのでしょう。ハワイ島の空港に着いた観光客が、タクシーに乗って「ワイキキまで」と運転手さんに言ったという、笑い話のような話を耳にするぐらいですから。

さてワイキキがお気に召さないという方に、ひと味違った観光地をおすすめしましょう。いや、ひと味どころではありません。きっと同じハワイの町とは思えないことでしょう。何せ町にはホテルが一つしかなく、主だったお店は雑貨店一軒のみ。牧場の牛の数の方が人の数より多く、実にほのぼの。マウイ島の東海岸にひっそりとたたずむその町の名は、ハナ。古き良きハワイの雰囲気が色濃く残り、「天国のようなハナ」と呼ばれ人々に愛されています。ハナはハワイでもっともアクセスが難しい土地の一つです。空港から海岸線沿いの細い一本道を辿っていくのですが、途中600以上のカーブとクルマがすれ違うことができない小さな橋を50あまりも渡らなければなりません。

「天国への道」と呼ばれる難関を抜けると、突如として目の前が開けます。手つかずの美しい自然とビーチは、まさに「ハワイ最後の楽園」と言っていいでしょう。陸の孤島ということもあり、昔から人々の往来が少なかったのでしょう。古き良き伝統と価値観を持つ人々が暮らし、まるでタイムカプセルに保存されていたよう。もちろん、今では町も近代化されてきましたが、のんびりとした時間の流れは不変です。そんな現代社会と隔絶された町の雰囲気に魅せられて、世界中の多くの著名人がこの地に移り住みました。初めて飛行機で大西洋横断に成功したチャールズ・リンドバーグもその一人。その偉業が称えられ一躍時の人となりましたが、有名になったがゆえに愛息が誘拐されて命を落とすという悲劇も味わいました。その事件をきっかけに人との付き合いを避けるようになってしまったリンドバーグが、永住の地に選んだのがハナでした。人生の栄光と悲しみを知った者をいやす何かが、この地にあるのでしょう。

ハナにはある伝説が残っています。ハワイの創世記には多くの神々が登場しますが、このハナも舞台の一つでした。マウイ島の名前になった半人神マウイの娘、ノエノエ・ウア・ケア・オ・ハナが主人公。ある時、ノエノエはカウイキという青年と出会い、たちまち二人は恋に落ちました。幸せの絶頂にいた二人ですが、運命は冷酷でした。なぜならカウイキは海の神の息子で、やがて大海原に帰らなくてはならなかったのです。そこでノエノエは父マウイにカウイキと永遠に一緒にしてほしいと頼みました。マウイは娘の懇願に負け、カウイキをハナ湾にのぞむ小山に、そしてノエノエを小山にかかる霧に変えました。今でも、カウイキ山に霧がかかっているのをよく目にします。こうして二人は一緒に暮らせるようになりました。しかし子どもを失ったマウイの悲しみはいかほどだったでしょうか? もしかしたら、リンドバーグはこの伝説を知っていたのでは? このカウイキ山からほど近い場所にあるリンドバーグのお墓を見ると、そんな思いが頭をよぎってやみません。

さて、ハワイにまつわる話を3回にわたり連載してきました。冒頭でも書いた「ハワイなんて」という食わず嫌いの方に興味を持ってもらえたら幸いなのですが……。ぜひ一度、足を運んでみて下さい。きっと、この島が好きになるはずです。何を隠そう、自分も「食わず嫌い」の一人だったのですから。

Hawaii vol.1 太平洋の奇跡、ハワイ
Hawaii vol.2 古き良き、ハワイの“日本”を訪ねて

文 美濃部 孝/写真 Hawaii Tourism Authority