シグニチャーモチーフに込めた想い

綺麗な色の糸が編みこまれた輪のモチーフやタッセルがかわいらしいピアス。ゆらゆらと揺れて、身につける女性にやわらかい雰囲気を醸しだします。

“身につける人が持つ空気感をプラスすることで100%になるような、どこか"未完成"な存在でありたい。自分らしさを大切に、しなやかに力を抜いて生きる大人の女性に選ばれるアクセサリーでありたい。”
フーヒップのデザイナー SEIさんが話すように、どこか控えめで、個性的な魅力を放つアクセサリーはどのように作られているのでしょうか。フーヒップ マーケティングディレクターの大野真貴子さんにお話しを伺いました。

女性たちによるエシカルアクセサリー

フーヒップのアクセサリーは、ベトナムの貧窮地区で育った女性たちによるハンドメイドです。デザインと材料は日本から送り、繊細な手仕事はトレーニングを受けた現地の女性たちが担当しています。そしてその商品を日本などの先進国で販売しフェアトレードを推進することが、作り手の自立へとつながるエシカルアクセサリーです。

「月」をイメージした、シグニチャーモチーフに込めた想い

フーヒップのアトリエがあるベトナムでは、月の満ち欠けを基準とした旧暦にそって人々は暮らしています。 満月の日にはお供え物を飾り豊穣を願い、新月になれば家の前に祭壇を作り先祖に祈る。自然や季節のうつろいを月の形から読み取り、月のリズムと繋がり暮らすことは、大切に受け継がれてきた人々の習わしなのです。フーヒップのリングモチーフ(輪)は、神聖で身近なベトナムの「月」をイメージしています。

もうひとつは、循環の「輪」としての象徴。 作り手たちに仕事を提供し、働いた分を還元して自立した生活ができる環境を創っていく。そして製品を買ってくださるお客様には、丁寧に心を込めて作ったアクセサリーとともに、晴れやかな気持ちもお届けします。売り手にも買い手にも作り手にも「幸せな循環」が生まれ、いつまでも続いてゆくように。国も年齢も言葉も、貧富や力の差も、なんの境目もなく全ての人々とつながるアクセサリーでありたい。フーヒップのリングモチーフには、そんなブランドフィロソフィーが込められています。

いいなと思ったお店に直接出向いて

フーヒップは、日本、ベトナム、シンガポールでほぼ同時に営業を始めました。ノーアポイントでお店の方に直接お話しにいったり、コールドコール(飛び込みの電話)をしたり。飛び込み営業をして感じたのは、日本 は非常に扉が重く、シンガポールではなどはまずすぐに中に入れてくれ、それから是非を判断するといった感じで、異なるもの対する寛容さを感じました。

日本でも、銀座の百貨店のジュエリーコーナーで体当たり営業をした際に、その場でご担当者に会わせていただいたのですが、グローバルブランドの高級宝飾担当の方でびっくりしました。たいへん丁寧に商品をみていただけて感激しました。 手袋をはめて、ライトをあてて丁寧に取り扱っていただいたんです。まるでハイブランドのジュエリーを扱うように。こちらの本気で勝負したい気持ちに、本物の扱いでこたえてくださったことがとても嬉しかったです。

当時はアパレル のこと、業界のしきたりを全くわからない状況で、いいなと思ったお店に直接出向くなどして営業する、ということをしていましたが、コンセプトを応援してくださる方にご紹介をいただいたり、少しずつ扱ってくださるお店が増え、目にしていただける機会もあり、口コミなどで広がりました。

今はブランドとして年に2回自社展示会を開催し、日本全国からバイヤ ーの方にお越しいただいています。

手に触れて感じていただければきっと正当に評価していただける、と信じて

私たちは、エシカル、フェアトレード枠ではなく、いちブランドとして展示会に出展することにこだわっています。そのため、体当たりのプレゼンテーションをして、デザイン性を評価いただき、無名の私たちが有名な展示会への出展の機会を得たこともありました。

パリのファッション合同展示会に出展したときのことです。通常のブランドと同様に、エントリーし、審査を経て出展できるのですが、なかなか返事が来ませんでした。エントリーをした後もメールをしたり、電話で問い合わせをしたりしたのですが、よい返事があるのか、またいつその結果がもらえるのか、ちゃんと審査が進んでいるのかもよくわからなかったので、私はパリに飛んでしまいました。

出展希望予定の回のひとつ前に開催された展示会の会場に行きました。そこに行けば、だれか担当者に会えるのではないかと思ったので。もちろん会場で他のブランドのリサーチやディスプレイなども調査しながら、でも出展審査に携わる、決裁権のある担当者に会いたかったんです。

足を棒のようにして歩き回りましたが広大な会場では直接なかなか出会うことはできず、ただなんとか聞き出して担当の名前と電話番号をゲットすることはできました。何度電話しても会期中繋がることはありませんでしたが、どうしても諦められず、日本に帰国する日、それは展示会が終了した翌日だったのですが、その展示会の主催企業のオフィスに直接足を運びました。

直接会うことができなくても、エントリーシートの情報だけではなくて、実物のアクセサリーを手にとっていただければきっとこのブランドの良さが伝わると信じていたので、なんとかサンプルをお渡しいただけるように、せめてだれかにお願いしたいと思いました。

目立つように、そして日本からのブランドだと印象づくよう、その日の朝に、パリにある日本人シェフのお菓子を購入して、そのお菓子にお手紙と名刺とサンプルをつけて用意しました。オフィスの前に着きましたが、頑丈な扉に大きな鍵がついていてとてもアポなしで飛び込める雰囲気ではありませんでした。

そこで、オフィス前に止まっていた運送会社のトラックの運転手さんにお願いして、中の人に会いたいので、その荷物と一緒に私を中まで運んで欲しいと頼みました。そうして入れたオフィスで、偶然にも最初に声をかけた方がジュエリー担当者で、短いエレベーターピッチ(30秒を目安とした短時間でプレゼンテーションを行うこと)をして、その場で審査が通り出展が許されました。手に触れて感じていただければきっと正当に評価していただける、と信じています。

いちアクセサリーブランドとして展開する意味

いちアクセサリーブランドとして、海外の合同展示会にも出展し、それが販路拡大にも繋がっています。

エシカルを前面に出さない、というのはある意味やせがまんかもしれません。ブランドとして出ることのよさは、主役がアーティザンになること。文化が醸成している国にはもっとエシカルなことを出せばいいのに、と言われますが、色眼鏡がかかっていると感じてしまう。1回だけ買ってもらうのではなく、継続して買ってもらいたいからです。

作り手の人生を真っ先に考えます。かわいそうな彼らが作っているブランド、ではなく、このデザインいいね、商品が素敵ね、で買ってもらうこと。それが、彼らが自分の人生に自信が持てることにつながるので。アーティザンががんばってきたことを成果として正当に評価されたいです。エシカルを前面に出さないことは挑戦でもあり、勝負でもあります。事業として成り立っていくことで、継続していきたいのです。

後編:~アーティザンの成長とともにあるブランド~につづく

お話し 大野 真貴子/編集 七戸 綾子