――最近英国ロイヤルバレエ団の振付家クリストファー・ウィールドンさんと結婚されたと聞きました。おめでとうございます!
ロス どうもありがとう! 2013年9月28日に、ファイヤーアイランドのビーチで、家族や親しい友人たちを招待して結婚式を開いたんだ。僕は淡いブルーにネイビー、クリストファーはベージュとワインレッドというサマースーツというカジュアルなスタイルでね。9月なのに夏のような天気に恵まれて、ほんとうに最高の一日だったよ。

――結婚式で印象に残っていることは?
ロス  じつは、ファーストダンスでタンゴを踊ったんだ。まるっきり初心者の僕が、世界で10本の指に入るトップバレエダンサーたちを前にね! 大好きなマルガリータを用意したんだけれど、一口も飲めなかった……。踊るのがとても怖かったから。みんなはマルガリータをたくさん飲んでいたから、きっと僕が上手に踊れてるって錯覚したんじゃないかな(笑)

大切なのは、一緒にいたいという気持ち

――日本では「同性婚」はまだ合法化されていませんが、アメリカではどのように考えられているのでしょうか。
ロス アメリカではニューヨーク州やカリフォルニア州など、一部の州で同性婚が認められているけれど、まだ同性愛に対する批判的な意見が根強いんだ。とくに、自分が生まれ育ったテキサス州などの保守的な州ではね。

――それでも結婚を決意した理由は何でしょうか。
ロス もちろん、アメリカでも同性婚はそんなに多くあることではないし、社会的にどう見られるかということを考えると、難しいと感じることもあった。でも、僕たちは他の誰もがしているように結婚したかったし、ずっと一緒にいたいと思った。ただそれだけなんだ。

――結婚をして、クリストファーさんとの関係は変わりましたか?
ロス 色々な人から同じことを聞かれるけれど、まったく変わらないよ。以前と同じような関係が築けているのが、僕たちにとってはとても心地よいことなんだ。でも、法律上夫婦として認められるようになったから、少しスペシャルになったかな(笑)

世界中でさまざまな経験を重ねて

――2人とも、仕事で世界中を飛び回っていますね。
ロス 僕は、アメリカはもちろん、アジアやヨーロッパなどでヨガを教え、クリスは英国ロイヤルバレエ団と一緒に世界中を公演してまわっている。だから、自宅のあるニューヨークで一緒に過ごす時間はほとんどなくて、ロンドンやパリ、東京など、外国で一緒にいる方が多いんだ。ちょっと珍しい関係かもしれないけれど、僕たちはこのライフスタイルをとても気に入っているよ。

――ヨガを世界中で教えようと思ったきっかけは?
ロス ロサンゼルスでヨガスタジオを経営していたときに、世界中から集まるヨギに出会い、自分自身が新たなレベルに高められたことを実感したんだ。ひとつの場所にいるのではなく、さまざまな文化の中でヨガを教えようと決意して、スタジオを閉めたのが7年前。それからずっと世界中でヨガを教えている。

――これまで何ヵ国訪れましたか?
ロス 90ヵ国くらいかな。まったく、クレイジーだよね(笑)。旅してばかりで大変でしょうってよく言われるけれど、そんなことはないよ。すばらしい人々に出会えるし、世界中にいる友達と直接話せるからね。

――バレエと接する機会も多いのですか?
ロス クリスに連れられてバックステージを訪れることもあるんだ。そこでは、世界のトップダンサーたちが、どうやって自分の心や体と向き合っているのか、何にインスパイアされて表現をしているのかなど、あらゆる面を知ることができる。それは、僕の専門分野であるセラピューティック的な観点から見ても、とても興味深いことなんだ。じつは、こうすると脚がもっと高く上がるよって、ダンサーに時々こっそりアドバイスすることもあるよ(笑)

出会うすべての人をリスペクトする

――英国ロイヤルバレエ団と聞くと、華やかな世界という印象があります。
ロス たしかに、英国ロイヤルバレエ団の公演には、裕福で権威のあるたくさんの人々が来ているし、とても華やかな世界だと思う。ときどき、つい彼らと自分を比べて、自分より優れていると思ってしまうこともあるんだ。でも、そういうときはいったん立ち止まって、自分が大切にしていることを、思い出すようにしている。

――その大切にしていることとは何でしょうか。
ロス 僕が大切にしているのは、出会った人すべてを尊敬すること。裕福であろうと、路上でゴミ拾いをしている人であろうと、僕たちは同じ人間なのだから。これは、ヨガのテーマのひとつでもあるけれど、実践するのはとてもむずかしいことだと思う。なぜなら僕たちは、自分が思い描くストーリーに不必要な人は簡単に排除し、そのストーリーにしがみつくことがいいと思ってしまっているから。でも、出会うすべての人々と丁寧にコミュニケーションをしていくことは、とても大事なことだと思うんだ。

撮影 野頭 尚子 / 文 小口 梨乃