心も感覚の一つ

――お茶のお稽古をしていると伺いました。
ノリコ 実は先生が私の祖母のお友だちで、母も結婚する前に習っていたという話を聞いていたので「私も成人になったらそこに通うのだろう」と何となく察していました。22歳の時に自然な流れで始めてから今まで続いています。着物を着ると不思議とその日1日を丁寧に過ごせるんです。丁寧に過ごすことが、心の平穏に繋がります。
今とは全く違うイメージかも知れませんが、20代の頃は海が大好きでサーフィンやボディボードもやっていたんですよ。そんな時期にお茶を習うことで、無意識に静と動のバランスを取っていたのだと思います。

――茶道のお稽古で大切にしていることはありますか?
ノリコ 茶道の心得を表す言葉に「一期一会」という教えがあります。
お茶の席で出会う人や使うお道具はその時だけのもので、同じシチュエーションというのは二度とありません。「一生に一度きりのこの瞬間をどんな時も大事にしましょう」という考えを大切にしています。ヨガに通ずる教えでもありますね。

お茶の席では、亭主は季節に合わせたお花やお菓子を用意し、その時に出来る最高のおもてなしを考えます。そしてお客様はその気持ちを汲み取り、結果的に双方が癒されるのです。日本は食の中に四季を取り入れ、美しい形や香りよって五感を楽しませてくれます。季節の移り変わりを大切にするなど、自然に寄り添う気持ちが強いですよね。私は五感以外にも「心」も感覚だと思っているのですが、それに働きかける日本の美意識をとても大切に思います。

あとは「集中すること」がとても大事ですね。やはりお茶のお稽古中も何か別の事を考えているとお点前の流れが止まってしまうんです。一瞬一瞬集中して行うことで綺麗な流れが出来ます。ヨガやお茶のお稽古によって目の前の事を大切にする、つまり「今を生きる」ことの大切さを実感しています。お茶が広まった当初の京都も、現代と同じようにストレスを抱えていた人が多くいて、そんな大都会のオアシスとなるようにお茶室設けて人々を癒してきたと言われています。
スタジオ・ヨギーも大都会のオアシスとなるようなそんな存在ですよね。

ヨガとの自然な出逢い

――サーフィンやボディボードもやっていたとのことですが、とても意外です。ノリコさんの10代20代の頃についてお聞かせいただけますか?
ノリコ 本当に引っ込み思案で人前に出るのが苦手な子どもでした。ただ、運動も苦手でダンスの経験もないのに、高校のダンス部の見学に行った時 「絶対にやりたい!」という気持ちが不思議と生まれました。ダンスによって自分を表現することや、みんなで協力して何かを作り上げていくというプロセス、達成感がとても楽しかったです。
大学生の時はダンスから離れていたのですが、高校時代の友人が地方のテーマパークで踊ると聞いて見に行きました。その彼女の姿を見て「私もショーに出たい」と奮起し、再びレッスンに通い始めました。私は小さい頃からダンスをやってきたわけではないし、周りの子に比べるとはるかにレベルが違うので伸び悩んだ時期もありました。そんな時は先生やダンス仲間が支えてくれたので頑張れましたし、やがてダンスの仕事もいただくようになりました。本当に有難かったですね。
怪我がなかったら続けていただろうとは思いますが、7~8年位と長く続けている間に急に膝に痛みが出てきてしまってドクターストップによって辞めることに。そんな時にヨガに出合いました。

――ヨガインストラクターとなったのも自然な流れだったんですね。
ノリコ そうですね。ヨガの勉強をしていた頃はまだ会社に勤めていました。「何かを始めたい。ヨガの道に進もうかな。」と考えていた時に急遽クラスの代行を頼まれるようになりました。
仲間内で教え合いの練習はしていましたが、初めて代行を務めた時はとても緊張して全く穏やかに出来ず反省の連続でしたよ。

そういえばヨガを習い始めた頃に、涙が溢れて止まらなかったことがあります。悲しいわけではないのになぜか涙が止まらない。最初はびっくりしたけれど、「いっぱい考えていたのでしょう。心の中の膿が出たんだね。」とヨガの先生からそう言っていただきました。自分の言葉や考えを超えたものだったと思い、その理由は追及しませんでした。
こんな不思議な体験をした後、ヨガを続けることで気持ちも落ち着いてきて、「何故だろう? ヨガはただの運動ではないんだ。」ともっとヨガを知りたくなり、それを伝える勉強も本格的に始めました。そうして今に至ります。 

――旅も好きとのことですが、どこか印象に残っている場所はありますか?
ノリコ 奈良の吉野という所でシヴァナンダヨガのリトリートに参加した際、知り合いから「是非天川村に行ってみて下さい。」と言われました。奈良はとても好きでよく訪れていたのですが、そこには行ったことがなかったので、帰り道に寄ってみました。ヨガリトリートの直後だったので感覚も研ぎ澄まされていたと思いますが、もの凄く強いエネルギーを感じました。
空気もお水もとっても綺麗で、芯から洗われる感じでしたね。とても気持ちよく過ごせたのを覚えています。帰ってきてからもとても調子がよかったですよ。

――これから訪れたい場所はありますか?
ノリコ 3月に奈良で「お水取り」という行事があります。正確には「修二会(しゅにえ)」というのですが、1250年も続いている東大寺の行事でもともとは懺悔の為に始まった行事だったそうです。戦争中も欠かさずに行っていたらしいですよ。今はお坊さんたちがお祈りをして人々・国の幸せを願うために行っているみたいです。メインは4、5日間ですが、準備に1ヶ月間以上設けて行う大イベントとのことです。是非参加してみたいなって思っています。

――今はヨガ インストラクターとして多忙な日々を送られているノリコさん。必ず行うように心掛けていることはありますか?
ノリコ アーユルヴェーダの教えでもよいと聞く、白湯を毎朝ゆっくりと飲みます。それがないと身体が目覚めない感覚があります。
そして寝る前の時間もとても大事にしています。寝る1時間前はパソコンも携帯電話もお部屋の電気もオフにして静かに過ごすようにしています。寝る前は呼吸法を行い10分位瞑想をします。

――ヨガでの学びも生活に活かされているんですね。ヨガのトレーニング以外に毎年欠かさず行っていることはありますか?
ノリコ 滝行ですね。奥多摩の大自然の中で行います。とても気のいい場所で、今年で10年目になります。毎回違う感覚があり、私にとっては1年に1回の汚れを流す行事のようなものです。終わった後はとてもスッキリしますよ。もちろん来年も行くつもりです。

人は人。自分は自分。大事なのは自分の感覚に素直に向き合うこと。

――ノリコさんにとってのArt of livingとは?
ノリコ とても考えましたが、私は「自分らしく生きること」が大切だと思います。
アート、芸術って見る人によって感じ方も違いますよね。何が良い悪いではなく、それをどうとらえるか、どう意味をつけるかはその人次第です
幼い頃、母から「人は人。自分は自分よ。あなたはどう思うの?」ってよく聞かれていました。すぐに自分の考えを答えられる子どもではなかったし、みんなと一緒にやりたかったので反発していましたけどね。でもその母の言葉のお陰か、様々な出会いや発見がある中でも「自分にとって心地良い選択」を続けることが出来ました。
その時々にひらめきや直感に耳を傾け、素直に自分の感覚に従うと結果的に全て繋がります。
例えばずっとダンスを続けて怪我をして辞めざるを得なくなったけど、そのお陰でヨガに出合えました。それにずっと続けてきた茶道もヨガに近い部分が多くある。今まで自分が自然に選んできたものは、ちゃんと意味があり繋がっていたんです。

撮影 野頭 尚子/ 文 Miwa Yamasaki