なぜ学校をつくろうと思ったか?

 今、僕は仲間とともに軽井沢にISAKという学校をつくっています。「100人でつくる学校」というコンセプトのもと、学校の言い出しっぺということで、僕がファウンダーの皆さんの代表を務めています。設立準備に向けて中心となって動いているのが、小林りんさんという、学校設立をライフワークとする女性です。彼女のことはまた別の機会にぜひお話しさせてください。この学校の特徴は、海外から来る多くのハングリーで才能ある学生と共に学ぶ日本で初めての文部科学省に認められた全寮制のインターナショナルスクールということです。この9月から世界中から集まった最初の50名の高校生が全寮制で学びはじめます。 

 僕は、自分の息子にいろんな国の人とコミュニケーションができ、彼らの考え方もわかるようになってもらいたいと思い、インターナショナルスクールに入学させました。その学校の子どもだちも50ヵ国以上の多様な国から集まって来ていてとても良かったのですが、学費が高いこともあってみんな富裕層の子どもたちばかりでした。その結果、生活スタイルやバックグラウンドという意味では意外と似ていてあまり多様性がありませんでした。
 僕は投資家という仕事をしていますが、実際の投資を通じてハングリーで才能がある人たちは本当にすごいということを痛感させられてきました。その意味で発展途上国のハングリーで才能のある子どもたちは世界の宝だと思います。そういう発展途上国の子どもたちはアメリカや日本のような先進国で勉強して先進国へのアクセスを持てれば素晴らしい人生が歩める可能性がとても高いと思います。

 一方、彼らと共に学ぶことは日本の子どもたちにとっても素晴らしい経験になると思います。彼らは、発展途上国から来たハングリーで才能のある子どもたちとともに勉強することで改めて自分がいかに恵まれているかわかり、刺激を受け、自分らしい人生をちゃんと送らないといけないと強く思うようになると思います。
 将来、海外から学びに来ていた卒業生が、日本とアジアあるいは他の発展途上国との、架け橋になってくれたらそれは素晴らしいことだと考えています。自分が学生だった時のことを思い出しても、親や先生にいろんなことを言ってもらってもても、なかなか実感できなかった記憶があります。やはり一緒に時を共にしている同年代の友だちから最も大きな影響を受けるのではないでしょうか。
 さらに大事なこととして、国同士が政治的にうまくいっていない国から来た子どもたちも一緒に暮らして生活を共にして勉強したら、お互い人間同士は本質的に変わらないものでわかり合えるものだということがきっとわかるはずだと思います。

問題を解くよりも、問題を設定する方が大切

 今の発展途上国や、昔の日本は先進国を追いかける大量生産の時代だったので、ある意味先進国を見習ってどういう風にしていけばいいかという答えはわかっていました。そのような環境の下では与えられた問題を解決していけば良かったのです。しかし、少なくとも現代の日本みたいな先進国では与えられた問題を解く時代は終わったんです。世の中の動きはますます速くなり、これからの社会は何が起こるか全くわかりません。

 これからは与えられた問題を解く力よりも何を解くべき問題とするかという課題を設定する力の方がよっぽど大事になっていくと思います。デザインシンキングと呼ばれていますが、与えられた問題を解くのではなくて、何を解く問題として課題設定するかを考える力、その能力を伸ばす必要があると思います。これはどちらかというと左脳よりも、右脳的な思考が大事になってくる、デザインとかアートとか、右脳的な能力がとても重要になってくると思います。
 我々がISAKのサマーキャンプで取り入れたd-schoolは、Macのコンピューターのマウスを設計したことで有名なIDEOとスタンフォード大学が共同で作ったもので、まさにそのような能力を高めようとしているものです。ISAKでは、このように課題を設定するデザイン力を伸ばす教育をしていきたいと考えています。

真の地球人を育てたい

 親しい友人である建築家のエドワード鈴木さんに伺ったのですが、かつてバックミンスター・フラーという建築家が「宇宙船地球号」という考え方を提唱したそうです。地球上の今のエネルギーというのは、何百万年もの間に貯められたものを一瞬に使ってしまっている。世界中の人類は現代の人も未来の人も皆、宇宙船地球号の住民なのだから、資源を平等に大切にしないといけないという考え方です。
 しかし産業革命以降、エネルギーを持っている人と持っていない人とでは生産性が全く違う。自転車しか交通手段を持たない人と飛行機に乗れる人とでは比較しようがありません。だから、自分はもっとエネルギーをほしいという考え方になる。資本主義がいきすぎた最大の理由の一つがこれです。そんなことをしていたら地球全体が持たなくなってしまう。共生とか共感とか自分たちが地球人の一部であり、全体として素晴らしい地球をつくっていくんだという考えをリーダーが持ってくれない限り、世界はもたないと思っています。そういう価値観を持つ子どもたちを育成したい。

 そのためには、リーダーはまず自分のありのままの姿を見つめることが大切で、自分のよさがわかったら、はじめて人の良さがわかるし、周りの良さや自然のよさもわかると思います。その中で自分の個性を思い切り発揮することにより、いつのまにか人の共感を呼び、世の中をいい方向に変えていく、そのような意味でのリーダーに育っていって欲しいと思っています。

 これもエドワードさんから伺った生物学者の話ですが、もともと人間の細胞はどのような細胞にもなれたんです。脳にも心臓にも骨にも筋肉にも爪にもなれました。ところが結局それぞれの細胞になり、個性を思い切り生かしながら、全体として一つの人間としてより良くなろうとしているのが、我々1人1人なわけです。これがまさに地球の理想だと思います。人間の細胞は60兆ですが、世界の人口はたった70億人なのだからできないことはないのです。
 今の資本主義では、脳が一番偉いとか心臓が偉いとか、みんな考えている。脳になりたい心臓になりたいと、資源やエネルギーやお金を独占しようとする。それでは上手くいくはずがありません。人間の細胞を見習って、みんながそれぞれ自分の得意なことをやりながらも調和を築いて、全体としてより良いものになるのを目指していけばいいのです。そういう考え方ができるリーダーこそが行き過ぎた資本主義の次に来る時代のリーダーに相応しいと思います。
 そのような意味でのリーダーがISAKからたくさん育ってくれて、より良い社会を目指して、自分たちの個性を思いっきり表現していってくれるようになってくれるならば、本当に嬉しく思います。

語り 谷家 衛 /イラスト 山﨑 美帆 /構成 サンオープロダクションズ