バカばっかりだ。無駄すぎる。
いい加減にしろーっ!

と口に出しては言えないから、モト子はメールに打ち込んで自分に送った。今日の会議の不毛さを思い出すと体の中が「イライラ」という文字でいっぱいになるようだ。こんな日はまっすぐ家に帰って、早く寝てしまうに限る。でないとコンビニで菓子パンやら何やら買うはめになる。翌朝、後悔することになる。ハイヒールをアスファルトに突き刺すようにして、モト子は早足で帰った。

翌日もまた、モト子は闘った。言い過ぎた。トゲがあった。自己嫌悪。にこにこして可愛がられている同僚が、うらやましい。いや、その前に腹立たしい。

どうしてうまくいかないんだろう?

モト子はまた自分にメールを送った。そういえば、昨日のメール届いてないな。いや、届かなくてよかった。あれこそ正真正銘の迷惑メールだ。家に帰ると宅配ボックスに小包が届いていた。何だろう? 差出人は「同上」。モト子本人。通販でなんか買ったっけ。開けてみると

大きな玉ねぎが一個。

いよいよ、まったく、覚えがない。手に取ってぐるりと眺め、モト子は息が止まりそうになった。玉ねぎの表面にはこう印刷されていた。

バカばっかりだ。無駄すぎる。
いい加減にしろーっ!


翌日、また小包が届いた。気味が悪い。気味は悪いが、開けずにはいられない。ごく普通の玉ねぎが一個。そんなはずはない、とモト子は玉ねぎの皮を剥いた。

どうしてうまくいかないんだろう?

やっぱり。モト子はゴミ箱から昨日の玉ねぎを拾い、ローテーブルに2つの不気味な玉ねぎを並べた。モト子は考えた。仕事の不満も人間関係の悩みも吹っ飛ぶほどのミステリー。

どれぐらい時間が経っただろう。モト子は意を決して、ノートパソコンを開けた。心のなかにある黒いものをすべて書き出す。メール送信。

翌日も玉ねぎが届いた。皮を二枚剥いた内側に小さなフォントでびっしりと昨夜の文章が印刷され、赤玉ねぎならぬ黒玉ねぎのようだ。モト子は黒玉ねぎをてっぺんから読んだ。自分の言葉が痛い。他人は他人だと割り切れたら怒ることもないのかな……ため息をつき、静かに一枚皮を剝いた。きゅっきゅっと音がしそうなほど、つるつるした新鮮な面が現れる。

どうする? また真っ黒にする? 自分の思いどおりにならないからって、ぜんぶ人のせいにするの? 玉ねぎに問われている気がした。

意見を聞いてほしかった 認めてほしかった 甘えてるだけ? まじめに仕事して何が悪い 負けたくない あきらめたくない 変なプライド? わがまま? 自分さえよければ? いや、変わりたい……

そうだ。変わりたい。モト子は「変わりたい」とメールを送った。それから一週間、モト子は自分の気持ちを確かめるように毎日メールを送り、玉ねぎは毎日届いた。

一枚一枚皮を剥かれ、冷蔵庫に並ぶ玉ねぎはだんだん小さくなっていった。もう剥けない。明日で最後かもしれない。モト子は悩んだ末に空メールを送信した。

翌日届いた玉ねぎには、今までの言葉がすべて一枚ずつ刻まれていた。モト子は一枚ずつ読み、一枚ずつ剥いた。「バカ」から始まって「どうして?」と問われ、最後は「自分も人も好きでいたい」と打ち明けられた。私、何やってるんだろう? 結局、どうしたいんだろう?

よりよくありたい

という言葉がふと浮かんだ。モト子は最後の一枚を剥いた。残ったのは小さな芯だけ。ほかには何もない。

モト子は冷蔵庫から今まで届いた玉ねぎを取り出し、すべて刻んだ。涙がたくさん出た。飴色になるまで炒め、スープにして飲んだ。

***

ことばをお聴きのみなさまへ

こんばんは。今年最後、第八夜のキーワードは「よりよくありたい」でした。自分の気持ちや気になっていることを、紙に手で書き出してみたり、瞑想してみたり。新しい年を迎えるまでに、よかったら心の大掃除をしてみませんか。誰にも見せなくていいし、この玉ねぎみたいに黒くてもいいし。人にぶつけないで、自分で自分の話をやさしく聴いてあげる感じです。あふれるものがあったら出してしまいませんか。

自分で自分の話をやさしく聴いてあげたら、あなたの最後の玉ねぎには、何が書いてあるでしょうか? よかったらわたしたちにも聴かせてください。おたよりはいつでも募集しています。前夜から第八夜まで、どの感想でもうれしいです。

今夜もおたよりをいただきました。ありがとうございます。

・・・第七夜へのおたより・・・
素敵なお話。歳をとるごとに、繊細なこだわり、忘れてしまってるかも! もっと自分自身に注意を向けるようにしたい。まず自分を大切にしてから、人を受けいれることができるようにしたいな。
——K.Hさん

・・・連載全体へのおたより・・・
心の中から幸せが湧いてくる内容でした。
ヨガを習いたくなりました。
——みくさん

来年もひとりひとりにとっての「わたしにかえる時間」がやさしいものでありますように。どうぞよいお年を。

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|ワークショップ
マインドフルネス~気楽に取り組める心の整頓術~

イラスト 内田 松里/文 古金谷 あゆみ