川原の土手で
シロツメクサの花かんむりを作ってたら
四つ葉のクローバーをみつけた。
ぷちん、とつんで走った。

「かなちゃーん、見て! 四つ葉のクローバーやで」
「ほんまや。すごーい」

わたしは手のひらに四つ葉のクローバーをのっけて、1、2、3、4……ひとさし指で葉っぱを数えた。かなちゃんも1、2、3、4と数えた。それから、かなちゃんは信じられないことを言った。

「うちにちょうだい」

風がびゅうっと吹いた。四つ葉のクローバーが飛んでいかへんように手をにぎる。なんにも言われへん。かなちゃんのリクツがはじまった。だって、うち四つ葉のクローバー持ってへんねんで、あんた持ってるやん、て言う。

「いやや」
「なんでよ」
「だって、わたしがみつけてんもん。かなちゃんにあげたら、わたしのなくなってまうやん」

かなちゃんはだまった。わたしもだまった。土手の向こうのスピーカーから“カラスが鳴くから帰りましょ”が聞こえてきて、なんかしょうもなくなって、バイバイもせんと家に帰った。四つ葉のクローバーをお母さんに見せてから、いいことありますように、と目をつぶってお願いした。

そんで目を開けたら
なんでやろ、また、川原におった。

わたしは土手にしゃがんでて、目の前に四つ葉のクローバーがあって、あれ、て思ったまま動かれへん。どないしたーん、とかなちゃんが走ってくる。わたしはあわてて、ぷちん、と四つ葉のクローバーをつんだ。

「四つ葉のクローバーやん。すごーい」

それから、かなちゃんは信じられないことに

「うちにちょうだい」

と、さっきとまったく同じことを言ってきた。なにからなにまで同じことが起きて、そんで目を開けたら、わたしは、また、川原におった。

何回も何回も、同じ日がつづいた。かなちゃんもお母さんもロボットみたいに同じで、きしょくわるかった。四つ葉のクローバーも、しあわせのしるしと思ってたけど、きしょくわるくなった。だから、もう、かなちゃんにあげることにした。

「わたしいらんから、かなちゃんにあげるわ」

かなちゃんもわたしも、バイバイをして家に帰った。やっとちがう日になってよかったと思った。お母さんにくっついて寝た。

でも、なんでやろ。
朝になったと思って目を開けたら
また、川原におった。

もういやや、てなった。ちがう日になりますように、てお願いしたけどならんかった。四つ葉のクローバーを、かなちゃんと2枚ずつはんぶんこにしてみたり、じゃんけんして勝ったほうがもらってみたり、橋んとこにおそなえしてみたり、川に流してみたり、なんもせんと家に帰ってみたりしたけど、何回も何回も何回も、わたしは川原にもどってきた。

もう何回目かわからへん。同じ日ばっかり。かなちゃんと遊んでも、ちっちゃい子と遊んでるみたいでなんにもおもしろくない。世界中でこんなことになってるのは、わたしだけや。ひとりぼっちなんや。なんでも相談したらいいなんてうそばっかり。ロボットみたいなお母さんやかなちゃんに、こんなこと話してもわかるわけない。ふつうのお母さんに会いたい。ちがう日に帰りたい。

風がびゅうっと吹いて、土手の草がぜんぶゆれた。もう何こ目かわからない四つ葉のクローバーに、ぼたぼた、涙がおちる。シロツメクサの花にも、ぼたぼた、おちる。

「どないしたーん」

何人目かわからないかなちゃんが走ってきて、わたしの顔をのぞきこむ。

「こけたん? おなかいたいん?」
わたしは泣きながら首をふった。
「お母ちゃんよんできたろか?」
わたしは泣きながら首をふった。
「なんで泣いてんの?」

なんにも言われへん。かなちゃんのリクツがはじまった。うちわからへんけど、あんた泣きたいねんな、て言う。わたしは泣きながらうなずいた。かなちゃんはそのままじいっとわたしの横にいた。

「かなちゃん、四つ葉のクローバーほしいんやろ? そこにあるで」
「ほんまや。すごーい」

かなちゃんは1、2、3、4とひとさし指で葉っぱを数えている。

「なあ、なんでそんなもんほしいの?」
「だって、いいことありそうやん」
「いいことってなに?」
「逆上がりできるようになったりとか、するかもしれへんやん」
「かなちゃんはええな。いつもたのしそうやな」
「なにそれ。おばあちゃんみたい」

あれ。ロボットみたいなかなちゃんが、ちょっとだけ人間に見えた。もしかしたらかなちゃんの言うとおり、わたしは同じ日をぐるぐるしながら年をとってるのかもしれない。

「かなちゃん」
「なに?」
「わたし、なんでそんなに四つ葉のクローバーがほしいんかわからへんけど、かなちゃんはほしいねんな」
「うん」
「かなちゃんは、四つ葉のクローバーみつけてうれしいねんな」
「うん」
「わたしもさいしょは四つ葉のクローバーみつけてうれしかってん。だから、かなちゃんとかお母さんに見せたかってん」
「うん。うちもお母ちゃんに見せたい」

土手の向こうのスピーカーから“カラスが鳴くから帰りましょ”が聞こえてきた。

「このへんにもういっこ四つ葉のクローバーあるんちゃうかな。かなちゃんといっしょにさがしたら、みつかるような気する」
「ほんまに?」
「うん」

わたしはゆっくり目をつぶった。

***

ことばをお聴きのみなさんへ

今夜のキーワードは「わかちあう」でした。この連載でもそれぞれのキーワードについて “おたより”というかたちでみなさんと「わかちあう」ことができたらいいなと思っています。

◯第十二夜「自分のものさしを持つ」へのおたより
(あなたが大切にしたいことはなんですか?)

ーー私らしさを見つける旅(ムーンさん)

ムーンさん、ありがとうございます。「探す」ではなく「見つける」旅なんですね。ムーンさんの短いことばに、決意表明のようなくっきりした姿勢を感じました。

◯第十一夜「日々の至福を感じる」へのおたより

ーー至福。いい言葉です。なんでもよくて、外からのジャッジじゃなく自分自身がほーっとしたり楽しいワクワクすることに敏感になりたい(もちろん嫌なこと不快なことに対しても)。感じること。

かっこの中にそっと書かれていることや「なんでもよくて」がどっしりしていて、感じてはいけないことなんてないんだなと思えました。ありがとうございます。

感じたこと、思い出したこと、シェアしたいこと、ご感想なんでも……こちらからお送りください。梅雨のころは、雨の音を聴きながらぼーっとするのもいいですね。小雨の日も、雷雨の日も、「わたしにかえる時間」を。

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編集部より。連載「わたしにかえる時間」でイラストを毎回描き下ろしてくださっている内田松里さんのお仕事の近況です。

この夏、下北沢駅前劇場での2人芝居「父と暮らせば」(佐藤B作、野々村のん 主演)のチラシを制作。前売り好評発売中!

古金谷あゆみ がガイドをつとめる「書く瞑想」クラス情報
朝のジャーナリング~書く瞑想~
書く瞑想「わたしにかえる時間」満月編
書く瞑想「わたしにかえる時間」新月編

イラスト 内田 松里/文 古金谷 あゆみ