「綺麗でしょう、島にんじんの花だよ」
昨年の梅雨のころ。友人宅の庭先で、初めて見るこの花に目を奪われた。
苺やなす、かぼちゃのような野菜は、花が咲いてから実をつける。一方、にんじん、ほうれん草、ブロッコリーなど葉や茎や根っこを食べる野菜の多くは、収穫すべき時期を過ぎてから花を咲かせるので、当然、花を見る機会はなかなかない。友人の島にんじんは土との相性が合わなかったのか、食べられるほどには育たなかったそう。
「でも収穫できなかったおかげで、花をたのしむことができた」

そうして花が咲き終わると、残るのが種。元となっている種の状態(F1種か固定種かなど)や土との相性によるものの、基本的にはこの種からまた新たな野菜が育つ。
ちょうど畑を始めたばかりだったので、いくらか譲ってもらい、風通しのいい場所に吊して乾燥させること約ひと月。水分が抜け切ったところで冷暗所に保管。まずは試しに数粒を、晩秋のころ畑に蒔いた。
花が散って種が残り、また芽生える――。命がつながっているんだなあ(嗚咽)。

「で、今ごろは健気に冬越ししてると思うんですよお~」
なんて話を、うっとりしながら畑の大家さんに報告した。
「……芽が出ていたのは、にんじんじゃなくて、ほうれん草。にんじんの種を秋に蒔くという話も、この辺りでは聞かないなあ」
わーーーお!

写真&文 松田 可奈