七戸 ようやく「Art of living magazine」が形になりました。ありがとうございます。

水鳥 こちらこそ ! 準備から1年ですね。

七戸 プロのデザイナーである水鳥さんに、単に「おしゃれな形」ではなくて、もっと深くて立体的な意味でデザインの力をお借りできたのはとても大きかったです。話しながら、私たちが何を大事にしていきたいのかを、浮き彫りにすることができました。

水鳥 自分たちの思い描いている「生き方」について、ヨガを通してだけではなく、発信していける媒体を作りたい、と。やりたいことを“因数分解”していくうちに「Art of living」という言葉が出てきて。

七戸 好きなことに没頭するとか、丁寧に生きるとか、そういう話から出てきました。チームのメンバーで何度もブレストをしましたよね。どんなメディアにしたいかだけではなくて、何が好きかとか、誰に会いたいかとか。それを繰り返すことで「土」と「根っこ」が共有されていった。

水鳥 ものを作る時は、そうやって本質を共有することがすごく大事だと思います。

七戸 水鳥さんご自身の思うArt of livingって、どんなものですか。

水鳥 自分に素直になることですかね。それでバンコクに住むことになりました(笑)。

七戸 そう ! バンコクに住んでお仕事をされていて……今、2年目ですか?

水鳥 ええ。あっという間でしたね。日本でデザイン会社を経営している状況で、それは無理だなって最初は思ったんですよ。でも心の奥にある一番の思いは「バンコクに住みたい」ということ。ならば実現するために問題を整理整頓していけばいい、と。

七戸 Art of living=心を揺さぶる経験というような捉え方もしていますが、バンコクでの経験がやはり大きかった?

水鳥 心揺さぶられましたね……今も揺さぶられ続けている。小さな感動が積み重ねられていくんですよ。庭にマンゴーの実がなったとか、水をまくと小さな虹がかかるとか……毎日、なんて幸せなんだろうと思う。バンコクにいると五感がビビッドになるんです。七戸さんのArt of livingは?

七戸 私は……理性や感情も飛び越えて「あ、わかった」って何かが腑に落ちる、という経験が何度かあって。何年か前の秋に父が病気になったんですが、私はどうしてもそのことを信じられなかったんです、恐ろしくて。でもある時電車に乗っていたら、きれいな紅葉が窓から見えて……その瞬間に「ああ、本当のことなんだな」とストンと受け入れられて、初めて涙が出た。なぜそうなったか、うまく言えないんですが……あの瞬間は忘れられない。その場では理解できないことって日常にたくさんあると思うんですが、わからないまま持っていれば、ある時ストンとわかったりする。無理に答えを決めず、もやもやしたまま持っていることも必要だなと思っています。

水鳥 ああ、わかる気がします。

七戸 このマガジンに関わってくださる方との出会いにも心揺さぶられ続けています。バンコクにいきなり住んだ水鳥さんを始め(笑)、みなさん、自分 の気持ちを無視せずに、自分で道を決めて生きてきた方たち。「こう生きたい」という気持ちと行動が一致しているんですよ。それこそがArt of livingだと思うんですが、私はまだそこを一致させられずに、常に理想と実生活の間にギャップを感じて生きていて。そんな私が編集長というのもなんですが(笑)、私のようにギャップを感じている方たちが、何かちょっとやってみようかな、と小さくてもアクションに移すきっかけになるような、マガジンになれたら嬉しいなと思います。

水鳥 うん、僕もそう思います。

メイン写真 久保田 あかね / 文 門倉 紫麻 写真(本文・上) 水鳥 雅文 /(本文・下) 七戸 綾子