塩加減という点から考えてみよう。例えば、スイカに塩を振るのはスイカ本来の甘味を引き出すためであって、塩味そのものを味わうためではない。塩がなくてもスイカは充分に味わえるが、私たちは甘味というスイカ本来の味をより深く味わいたいがために微量の塩を振るのである。瑞々しく甘い。それがスイカの本質であるように思える。どのように食すか、私たちにほとんど選択肢はない。

茹で加減という点から考えてみよう。例えば、ブロッコリーなら中華風の炒め物にしてもサラダにしても、大概のレシピにはごく短時間で火を通すように指示されている。鮮やかな濃い緑色と歯ごたえのある硬い食感を残すためだ。だが、イタリアにはブロッコリーをくたくたになるまで煮て潰し、オレキエッテに絡めるような一皿もある。鍋の前から一歩も動かず、細心の注意を払って茹でなければならないほど火の通りがよいブロッコリーは、触ると崩れるほど柔らかく煮ることで初めて開花する独特の旨味もまた、同時に持ち合わせているのだ。

素材本来の味とは何か。ブロッコリーの火の通りのよさは“欠点”なのか“美点”なのか。私たちは野菜を片手にキッチンで立ち尽くし、夕食の時刻が差し迫るなか答えの出ない思索の旅に誘われる。もちろん電話をかけて語り合える相手を探し、探究の夜に酔いしれてもよい。しかし、今日を生きるために食事を調える、キッチンという現場においてはその必要はない。

まずは素材のありのままをよくみることである。まっすぐなキュウリなのか、曲がったキュウリなのか。長さ、太さ、重み、色艶、全体から感じられる生命力はどうか。ニンジンなどを生のまま一口かじってみるのもよい。香り、味、密度、水分量などを自分の舌で確かめるのだ。火を通さずに酢漬けにするべきか、炒めてきんぴらにするべきか、柔らかく煮るべきか。曇りのない目でよく観察すれば、答えは素材が教えてくれるだろう。

これは野菜だけの話ではない。私たち人間と世界の全てについての話である。

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ことばをお聴きのみなさまへ

こんばんは。第四夜のキーワードは「本来の価値に気付く」でした。

知らない街の古本屋さんで昔の料理事典をみつけて、こんなことが書いてあったらおもしろいなと思ってちょっと遊びました。でも、中身は大真面目です。

もしあなたが野菜だったら、どんな野菜でしょうか? その野菜のありのままをよくみてみたら、どんな美味しいお料理ができるでしょうか? 滋味あふれるお味噌汁か、絵画のように華やかな前菜か。欠点だと思っていたけど美点だった! と気付いたエピソードはありませんか?

よかったら私たちにも聴かせてください。そのままの自分を表現している言葉はきっと誰かの元気の素になります。おたより募集してます。

第三夜「心と体をととのえる」に届いたおたよりをご紹介します。

◯(あなたは、今、どんな色ですか? これからの日々をどんな色で過ごしていきたいですか?)今の色は、今にも雨が降り出しそうな雲の色。濃いグレーです。自分がどうしたいのか? 些細なことも含めて、わからないから。 これからは、きれいな海のようなブルー。濃くなったり淡くなったりしながらも、流れ波打つ変化を楽しむ色にしたい。
——ロコさん

◯「心と体をととのえる」を読んで、自分の体験を伝えたいと思った。かつての私は、物事を詰め込みすぎて心の余裕がなくなり疲れ果てていた。気持ちもとても不安定で生きることに価値を見出せない状態が続いていた。そんな状況を変えたいけれど、何から変えればいいのかわからなかった。そんな時にヨガと出合い、気付けば一日何クラスも受けるようになっていた。まるで何か自分の中のいらないものを手放すかのようにひたすら体を動かすと、気持ちがどんどんクリアになり悩みも消えていった。ポーズをしながら呼吸に意識を向けていくことで自分の世界に入ることが心地よく、まるで違う世界にいるような不思議な感覚になった。心の中のわだかまりも消え、あらゆることに対して「ま、いっか」と思えるようになった。今まで自分を客観視するなんてできなかった私が、今は、とても穏やかな気持ちで自分自身を見つめている。今まで起きた全てのことを経験として抱きしめながらも、手放し、日々新しい自分として生きていきたい。これが自分だと決めつけることなく、これからもありのままの自分を大切に生きていこうと思う。
——Megumiさん

ありがとうございます。読んで、感じて、考えて、書いて、ちょっと手直しして、えい、と送信する。そんなふうに時間をかけてくださったんだなと思うと、「心と体をととのえる」という耳慣れた言葉に血が通い、呼吸をはじめるような気がします。感覚的でも、理論的でも、その背景に「わたし」が存在しているおたよりを読むのが好きです。「わたしは」好きです。

夏から秋へ。感情の揺れや考えごとのひとつひとつに「わたしは」という主語をくっつけてみませんか。「わたしにかえる時間」のはじまり、はじまり、です。

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ワークショップ
幸せの脳活ヨガレシピ~ヨガに魅かれる訳をちょっぴり深く学んでみませんか?~

ヴィンヤサヨガを通して、人生を喜びと共に生きるヒントを見つけよう

イラスト 内田 松里/文 古金谷 あゆみ